【小倉全由】ミスを取り戻すに余りある勇気あるプレーに挑んだ志学館・梅野君に心の中で拍手 [2023年7月12日6時0分]

<高校野球千葉大会:志学館6-4八千代東>◇11日◇2回戦◇ゼットエーボールパーク

志学館が6-1として迎えた八千代東の9回裏でした。連続四球から右中間に二塁打で2点目。なおも無死二、三塁です。ここから八千代東がどこまで追い上げ、志学館が踏ん張れるか、最後の攻防に見入っていました。次打者は二ゴロ。志学館は3点目よりも1死を優先します。しかし、二塁梅野君は一塁へ高投。3点差で無死一、三塁。これは大きなエラーとなりました。梅野君の動揺がスタンドのここまで伝わってくるようです。夏の高校野球は、決着がつくまでに試練が訪れます。内野陣も動揺しているように見えます。2点差とされ2死一塁。ここで一、二塁間への強いゴロ。梅野君は猛然と飛び込み好捕。素早く立ち上がり送球。逃げ切りました。ミスを引きずらず、よく自分で決着をつけたと感じました。もしもはじいたら、同点の打者走者を二塁に進める可能性があり、大ピンチになります。消極的にならず、自分のミスを自分で取り戻すんだと、飛び付いた梅野君の強い気持ちに胸を打たれました。志学館のグラウンドは坂の下にあります。その坂を登れば拓大紅陵のグラウンドがあります。日大三と志学館は毎年練習試合をしてきたので、その校風はよく知っています。拓大紅陵に負けるもんか、という熱い気持ちをいつも胸に、全ナインが素晴らしい目をしています。練習試合で大差をつけても、決して力を抜かず、全力で走り、猛然と打球に飛び込みます。それでいて進学校として、勉強も忘れません。私はよく志学館の久保山監督にこう言うんです。「志学館こそ、本当の高校野球だよ」。甲子園を目指す気持ちは同じでも、環境面で恵まれた強豪校に、気持ちで絶対に負けまいとする。言い訳など一切せず、強いものに挑む姿こそ、高校野球の魅力を体現しています。

同じ関係かなと感じたのが、日大三と佼成学園でした。佼成学園さんには何度も苦しい試合で競り勝ってきました。こちらも負けられるかと、全力で戦ってきた自負があります。

そして先日、佼成学園の野球部OBの方に教えていただきました。毎日の練習を「明日が日大三との試合だと思ってやろう」と声を掛け合っていたと。ああ、日大三をそんな風に見ていてくれたのかと驚き、うれしくもありました。八千代東のあきらめない姿も立派でした。そして、最後の最後で、ミスを取り戻すに余りある勇気あるプレーに挑んだ梅野君に心の中で拍手を送りました。負けるもんか。必ず勝敗がつく高校野球で、この懸命さこそが、私たちの心を熱くさせてくれるんです。(日刊スポーツ評論家)